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DMC-GH4で映画を撮った話など

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こんにちは。
業界を随分と賑わせたカメラDMC-GH4の後継機種であるGH5が登場して数ヶ月。「今更かよ」という感じもしますが、今後値が落ちていくであろうGH4の中古機を使って映画を撮りたいと思う方や、恐らく価格的にもレンズの規格的にも対抗馬となっているであろうBlackmagicのPocket Cinema Camera(以降BMPCC)と比較したいとか、そういう方のためにも今回はGH4で映画を撮った時の話をしようと思います。
元々制作系の撮影の経験がほぼ無い私ですが頂いた案件は自主制作映画の撮影。私はその制作団体から発注を受けて撮影したという形です。照明さんも居ないので私、録音さんも居ないのでそれも私、あとポストプロダクションも全て担当したのでその辺りの話も少し。。

機材構成

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(マッドボックス...もっとレンズ本体に寄せないと意味ないです...だめな例です。汗)

カメラ:Panasonic DMC-GH4(全カットV-Logで収録)
レンズ:OLYMPUS ED12-50mmF3.5-6.3+LUMIX G VARIO 7-14mm/F4.0 ASPH. H-F007014
ヘッド・三脚:Manfrott 503+525MVB
レコーダー:ATOMOS NinjaBlade
マイクレコーダー:ZOOM H4n(24bit/96kHz wav記録)
マイク:SENNHEISER MKH-416
レンズフィルター:NDフィルター(+ハーフNDフィルター)各種+ソフトフィルター+レンズプロテクタ等
リグ:家に転がっていた安物

収録フォーマット:1920×1080,23.98p(ATOMOS NinjaBladeでGH4からの4:2:2出力をProResHQ 10bit 220Mbps収録)
ポスプロ処理:PremiereCS6でオフライン後にXMLを書き出してDaVinciResolveでカラーグレーディング。XMLを再度書き出してPremiereに戻し、オンライン編集。数カットほどバレ消しでAfter Effectsも使用。

GH4の使用に至った経緯

 ざっくり言えば予算不足です。
本当は色々な事を考慮した上でBlackmagicのURSA 4K(EFマウント仕様)やCanonのC300あたりを使用したかったのですが「予算がないので...」と言われ自己所有のGH4を使うことに。
更にGH4で映画を撮ったという話を知り合いや同業者から全く聞かず、ネットで色々調べるとデジタルハリウッド大学の大学院の方がPanasonicから提供を受けて映画を撮っていたみたいなのですが、制作時期から見てV-Logでの収録はしていないこと、また低予算で撮ったとは言え大学と企業がバックアップしていてメイキングを見た限りレコーダーはKiProを使っていたり、人員も確保できていたりと私が抱えることとなった超低予算案件とは状況が全く違ったのでアテにならず、個人的には結構チャレンジでした。楽しかったけど。(笑)

使用感

カメラの操作性

 小さい割に操作性は良い方では?と個人的には思います。ただめちゃくちゃ使いやすいという訳ではありません。それでも「良い方」と書くのは対抗馬であろうBMPCCの操作性がとてもとても悪いため、それと比較すればGH4は楽に手なづけられるという感じでしょうか。あと、色の再現性はともかく本体の液晶が結構見やすいです。本体の液晶に表示されるヒストグラムがもうちょっと端に寄せられると良いのになぁとは思いました。でも他のカメラも変わらないのでこんなものでしょう。

吐き出される映像とV-Log

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(映像からキャプチャしたグレーディング前の画像...)
 今回は全カットをV-Logで撮影しましたが撮影中に「これ全部Logで撮るのはやめたほうが良いかも」とか思いました。結局全部Logで撮りましたがやっぱり全部Logというのはやめたほうが良いでしょう。どんな場所でLogダメだな、と思うかというと屋内です。今回は照明にもお金をあまり掛けられなかったのでちっさいライトを2灯手配しただけであとは自然光頼りです。するとGH4の弱点である感度と相まってシャドウにノイズがバリバリ乗ります。グレーディングしていない状態でノイズが乗るということはグレーディングで苦労するということです。プロダクションの段階で出来ることは明るいレンズを使うこと、照明を焚くこと、Logで頑張らないでプロファイルをシネライクDにすること(シネライクDならLogほどノイズが乗らない...ように見える)、ISOを上げないことに尽きます。個人的にGH4で映像撮影する際の感度はISO800が限界かなと思います。それ以上は実用的で無いです。
 さて屋外で撮った時や明るさが十分に確保出来ている時の画はどうかと言うと結構良いと思います。勿論REDやその他RAWで撮影できるカメラほどレンジが広いわけではない事と、Logを使用した際の基本感度はISO400という仕様の問題、記録するフレームレートが24pなのでシャッターは1/50で設定している等、それらを踏まえると昼間の屋外ではめちゃくちゃ明るく写るカメラでもあるので、白をぶっ飛ばして雑に撮るとそれはLogと言えども色は飛んで記録されます。NDフィルターを使用した上でヒストグラムを確認、若干アンダー気味に撮らないと撮影後に後悔するでしょう。AF105なんかも若干アンダー気味に撮らないと白がぶっ飛ぶカメラでしたがこのカメラもそんなクセを持っています。ここではLogで撮った本編の、人間が写っている映像をお見せできないのが残念ですが、かなり良く写っています。

レンズとフォーカス

 今回主に使用した使用したOLYMPUSのレンズは諭吉さん1枚程度で買える安レンズだという事を考えればかなり頑張ったかなと思います。ただ動画用のレンズではないのでアイリスのリングが有るわけでもなく、またフォーカスリングも回りっぱなしのレンズな上、GH4側のフォーカス表示も距離ではなくてバーなので、記事の上の方に貼った写真でフォローフォーカスを装着した写真がありましたがあれは実戦投入しませんでした。勿論フォーカスマンも用意していないので現場では私がカメラをオペレートしつつフォーカスも合わせるという風にしました。基本マニュアルフォーカスのレンズをくっつけてENGカメラ(業界では普通ですが)を担いでいる事がちょっと前は多かったのでそれが活きたのか普通にフォーカスは拾えました。まともにビデオカメラマンをしている人なら案外、フォーカスで困らないかも知れません。センサーの関係でそんなにボケないのでそれも幸いしているかも。
 レンズの明るさについては流石に暗かったです。明るいマイクロフォーサーズのレンズを探してくるか、スピードブースターを間に挟む方法を取れば明るくなる上、画も広くなるという利点があるのでその辺りも検討すると良いと思います。
 ちなみに今回使用したOLYMPUSのED12-50mmは動画撮影においてはオススメしません。フォーカスの制御がなんか独特?で、マニュアルフォーカスでフォーカスを置いておいた上でズーム操作をすると後からフォーカスが追いかけてくるような挙動になって、一時的に画がボケます。フォーカスが超電子制御なんですね。多分。(無知)
とりあえず次回GH4で大掛かりな何かを撮る時、私はB4レンズをマイクロフォーサーズに変換するという手段を考えています。

音周り

 今回はMKH416の音をH4nに入れて録音を行いました。またこのH4nで録音したファイルを編集で使用しましたが、H4nのヘッドフォンアウトをGH4のマイク入力にも入れました。GH4で映像を録画する訳ではありませんがGH4から吐き出されるHDMIの信号に音が乗っかっていないとHDMI経由で伝送されるNinjaBladeのファイルには音が乗らず、プレビューする際に音がないという問題が起きるためです。今回のこの案件ではアフレコをしないで(普通の映画はアフレコ)基本的に現場で録った音に頼るというものだったのでプレビュー時の音は必須でした。尚、音声の同期についてはアナログにカチンコを使用しました。

 GH4をコンパクトに運用する場合はマイクの出力(XLR)を何らかのミキサーでGH4にステレオミニプラグで入力させて映像と一緒に録音させる方法があるとは思いますがやはりミキサー側で録音した方が音質が良いのは確かです。が、それも程度の問題でGH4に直接入力した場合でも簡易的な取材・ドキュメンタリー、Youtuberの方が使用する程度なら問題ないのでは無いかなと思います。

 さて、ここで問題だなと感じたのはGH4のLRの入力レベルが均一でない事です。同じ音を入力させてもLとRではどっちかが小さくどっちかが大きく入ります。どっちがどっちかは忘れました。どうであれH4nで記録する分には問題ないのですが..。
あとGH4内臓のレベルメーターはアテにしないほうが良いような気がします。GH4の検証段階で、ステレオミニのマイクを直接GH4に入れたりしてみたのですが、レベルメーター上では全く問題無いレベルだったのに、いざプレビューしてみたらバリバリ割れていた事があります。一応GH4にはオーディオのオートゲインがあったかとは思いますがノイズ感は増すので、音で失敗できない時はしっかりとモニターすることをおすすめします。
また外部ミキサーをリグに積みたくないけどXLRを備えるマイクを使用したいという場合は後述するインターフェイスユニット(AG-YAGHG)を使用する事をおすすめします。

端子周り

 HDMI出力時、4:2:2 10bitの映像を吐き出せるというのがこのカメラのウリでもあった訳ですがHDMIはMicroHDMIなので貧弱です。びっくりするくらい貧弱です。標準サイズのHDMI端子でも貧弱なのに更に貧弱です。多分大きくカメラ自体を動かすようなアクション映画でも撮ろうものならこれは致命的な問題になるでしょうが、そういう人はHDMIロックを買うか、インターフェイスユニットのYAGHGを購入してSDIアウトを使ってくださいという事だと思います。そういえばBMPCCもHDMIがMicroHDMIで苦労した事があります...。

ポストプロダクション

カラーグレーディング

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 左が生の状態で右がグレーディング後です。一番下の海の画像は内部録画です。コレに関してはちょっと色が壊れてます。すいません(-_-;)
映画本編の映像については全て10bitのファイルから編集、グレーディングを行っています。グレーディングはPremiereでオフライン後にXMLでデータを引き継いでDavinciでグレーディングを行いました。グレーディングした感じでいうと良くも悪くもLog、という感じです。良いライティングが出来ていると結構攻めたグレーディングも可能です。是非お見せしたいところですがお見せできず...。
10bitと8bitのノイズ感・バウンディングについてはここでは触れませんが、ポスプロで極力面倒を避けたいのであれば10bitで記録しておくべきでしょう。但し8bitで撮ったから使えないという訳ではなく、我々調理する側のスキルによってどうにでもなると思います。

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こちらはシネライクDで撮影したものとグレーディングしたものです。
シネライクで撮ってもLogの素材と混ぜることは出来ると思います。シネライク、結構良い感じです。全部シネライクDでも良かったかも。なんとなくディテールがよく残っているような印象です。

 やっぱりH4nで録音した音声と映像の同期をカチンコで取るのはめんどくさかったです。仕方ないことだけど。
 普段こういう映画やドラマ関係の編集をしないので知りませんでしたが、後日調べたらカメラ側で録音した音とレコーダーで録音した音を自動で同期させることが出来るPluralEyesというプラグインがありました。価格は約4万円とプラグインの割にはリーズナブルなので今後もこういう仕事が多ければ導入を検討したいなと思っています。

まとめ

 GH4だけで映画を撮るのは楽ではないです。正直めんどくさいです。
でもちゃんと特性を理解してあげれば意図通りの画を撮れるし、非常に基本的な事は抑えてあるカメラだと思います。水を扱ったり、やたら背景が動くようなシーンではセンサーの処理が追いつくのか、また内部録画でのブロックノイズは?とかそういう問題も出てくるでしょうが、それでも値段を考えればかなり頑張っていると思います。あと地味に画素欠けを修正する機能が助かりました。これはEOSなんかだとサービスセンターに送ってソフトウェア的に修正してもらうか、センサーを交換するかしか選択肢が無いです。
 予算的な制約の関係でカメラに掛けるお金を削る場合にGH4を使う、というのは大いにアリだと思います。ただGH4に限らず一眼レフカメラを"はじめての”*1自主制作映画で使用するというのは危険かなと思います。先にも書いたように撮影時に非常に手間がかかります。映像の基礎を抑えておいてそれを応用して使わないと大事故に繋がるため初心者にはオススメしません。少なくとも「自主制作映画を撮りたいんですが何を使えば撮れますか」と言っているレベルならアウトです。究極的には何を使っても撮れますので。
 最後に一つ。めっちゃネット上で「Logは良いぞ」「なんだLogすげーな」みたいな記事がありますがLogは万能ではありません。惑わされないように...。プロダクションの時点で画を整えておくことが基本です..。
おわり。

 *2018年4月14日 一部修正
 *2018年5月2日   当初「こういうカメラから映画撮影デビューするのも良いかも知れませんね。」と書いたものの、「初心者が一眼レフで映画を撮るのは危険かな...」と思い修正。一眼レフで映画を撮るのはプロじゃないと危険です。

*1:普段ビデオカメラマンとして仕事をしている人なら良い。映像というものが初心者ならアウト。という意味